6.1 運行リスクの評価及び最適な運航の計画の立案の基礎|無人航空機の飛行の安全に関する教則
令和4年9月5日に国土交通省から公開された「無人航空機の飛行の安全に関する教則」の内容について備忘録として挙げています。
以下の内容は全て国土交通省航空局「無人航空機の飛行の安全に関する教則」から引用しています。
6.1 運行リスクの評価及び最適な運航の計画の立案の基礎
6.1.1 安全に配慮した飛行
無人航空機の飛行にあたっては、法令等に基づく基準や要件に適合させるのは当然だが、様々な要素により、飛行中、操縦が困難になること、又は予期せぬ機体故障等が発生する場合があることから、運航者は運行上の「リスク」を管理することが安全確保上非常に重要である。
すなわち、運航者は行おうとする運航の形態に応じ、事故等につながりかねない危険性のある要素(ハザード)を具体的に可能な限り多く特定し、それによって生じる「リスク」を評価したうえで、「リスク」の発生確率を低減させたり、「リスク」の結果となる被害を軽減したりする措置を講じることで、「リスク」を許容可能な程度まで低減する必要がある。
この様なリスク管理の考え方は、特にカテゴリーⅢ飛行において重要となるが、その他の飛行においても十分に理解したうえで、安全に配慮した計画や飛行を行うことが求められる。
(1) 安全確保のための基礎
1) 安全マージン
飛行を行う際は、原則として飛行空域に安全マージンを加えた範囲で実施する。
● 飛行経路を考慮し、周辺及び上方に障害物がない水平な場所を離着陸場所と設定する。
● 緊急時などに一時的な着陸が可能なスペースを、前もって確認・確保しておく。
● 飛行領域に危険半径(高度と同じ数値または30mのいずれか長い方)を加えた範囲を、立入管理措置を講じて無人地帯とした後、飛行する。2) 飛行の逸脱防止
飛行の逸脱を防止するためには、以下の事項を行うことが有効である。
● ジオフェンス機能を使用することにより、飛行禁止空域を設定する。
● 衝突防止機能として無人航空機に取り付けたセンサを用いて、周囲の障害物を認識・回避する。3) 安全を確保するための運航体制
安全を確保するための運航体制として、操縦と安全管理の役割を分割させる目的で操縦者に加えて、安全管理者(運航管理者)を配置することが望ましい。(2) カテゴリーⅢ飛行において追加となる重要事項について(一等)
1) 想定非行空間と想定外飛行空間
想定非行空間は、無人航空機の飛行の目的や、機体やシステムの性能、環境に応じて設定される飛行範囲である。機体や外部システムの異常・外乱の影響で想定飛行空間を外れて飛行してしまうことに備える空間として想定外飛行空間を設定する。
無人航空機の運航が正常に制御できている正常運航時は、標準運航手順に従って飛行を行う。機体や外部システムの異常・外乱の影響で想定飛行空間から外れてしまう恐れ、又は外れてしまった異常事態では、直ちに以上対応手順へと移る。想定外飛行空間は異常対応手順により想定飛行空間へと復旧するのに必要な飛行空間である。
飛行の地上リスクを検討する際には、想定飛行空間だけでなく、想定外飛行空間更に安全マージンとしての地上リスク緩衝地域を合わせた範囲を検討し、そのリスクを一定の範囲まで低減するように計画する。飛行の空中リスクを検討する際には、想定飛行空間だけでなく、想定外飛行空間さらに任意で空中リスク緩衝地域を合わせた範囲を検討し、そのリスクを一定の範囲まで低減するように計画する。
隣接領域について、無人航空機が制御不能な形で進入してしまった場合に高いリスクが想定される場合には、隣接領域に侵入しないための対策を検討する必要がある。2) 安全確保措置に必要とされる安全性の水準、保証の水準
カテゴリーⅢ飛行は地上リスク、空中リスク共に高いことが想定されるため、飛行か非判断は安全確保措置により得られる安全性の水準(安全の増加)と、計画されている安全性の確保が確実に実施されることを示す保証の水準(証明の方法)の双方により評価されるべきである。
例えば、第三者への衝突の衝撃を抑える措置を計画する際、その措置の有効性は、衝突軽減の効果について安全性の水準と、その措置が必要な際に機能するかについて保証の水準の双方で、評価又は計画されるべきである。
安全確保措置に必要とされる安全性の水準、保証の水準は、いずれもその運航形態の持つリスクに応じて検討される。
6.1.2 飛行計画
(1) 飛行計画策定時の確認事項について
飛行計画では、無人航空機の飛行経路・飛行範囲を決定し、無人航空機運航するにあたって、自治体など各関係者・権利者への周知や承諾が必要となる場合がある。離着陸場は人の立入や騒音、コンパスエラーの原因となる構造物がないかなどに留意する。飛行経路の設定は高圧電線などの電力施設が近くにないか、緊急用務空域に当たらないか、ドクターヘリなどの航空機の往来がないかなどを考慮に入れる必要がある。着陸予定地点に着陸できない時に、離陸地点まで戻るほどの飛行可能距離が確保できないなどのリスクがある場合、別途事前に緊急着陸地点を確保しておくべきである。
飛行計画の全ての工程において安全管理が優先され、離陸前、離陸時、計画経路の飛行、着陸時、着陸後の状況に応じた安全対策を講じ、飛行の目的を果たす飛行計画の作成が求められる。
飛行計画再提示は、機体の物理的障害や飛行範囲特有の現象、制度面での規制、事前に予想しうる状況の変化などを想定した確認事項の作成が求められる。
予定される飛行経路や日時において緊急用務空域の発令など、一時的な飛行規制の対象空域の該当となっていないかなど計画策定時に確認する必要がある。
(2) 事故・インシデントへの対応について
無人航空機の運航中に万が一事故やインシデントが発生した場合を想定し、事前に緊急連絡先を定義しておく。負傷者や第三者物件への物損が発生した場合は人命救助を最優先に行動し、速やかに消防署や警察に連絡する。
(3) カテゴリーⅢ飛行のリスク評価結果による追加点検について(一等)
ジオフェンス機能による安全確保により第一種機体認証を得た機体の場合、カテゴリーⅢ飛行において確実に実施すべきジオフェンス設定(範囲や形状)の主な点検事項の例は、以下のとおりである。
● 当日の他の航空機との空域調整結果が反映されていること
(4) カテゴリーⅢ飛行のにおいて追加となる安全確保について(一等)
第三者の上空で不測の事態が発生した際に、機体が直ちに落下することがない様に行う安全確保の例として、以下の事項が挙げられる。
● 必要最低限の数より多くのプロペラ及びモーターを有するなど、適切な助長性を備えた機体を使用する。
● パラシュートを展開するなど、落下時の衝撃エネルギーを軽減できる機能を有する機体を使用する。
6.1.3 経路設定
(1) 飛行経路の安全な設定について
飛行経路は、無人航空機が飛行する高度と経路において、障害となる建物や鳥などの妨害から避けられるよう設定する。障害物付近を飛行せざるを得ない経路を設定する際は機体の性能に応じて安全な距離を保つように心がける。
操縦者の目視が限界域付近となる飛行では、付近の障害物との距離差が曖昧になりやすいため、事前に飛行経路付近の障害物との距離を現地で確認し、必要と判断した場合は補助者を配置することが望ましい。
(2) カテゴリーⅢ飛行において追加となる経路設定の注意点について(一等)
カテゴリーⅢ飛行では、墜落を想定し可能な範囲で人が立ち入りにくい飛行経路を設定する。また、飛行経路上で異常運航と判断した際の緊急着陸地点や不時着エリアを予め設定する。
機体に備わるフェイルセーフ機能の発動と安全対策は、事前に機能動作及び対策手順を確認する。
6.1.4 無人航空機の運航におけるハザードとリスク
無人航空機の運航において、「ハザード」は事故等につながる可能性のある危険要素(潜在的なものを含む。)をいう。「リスク」は無人航空機の運航の安全に影響を与える何らかの事象が発生する可能性をいう。発生事象のリスクは、予測される頻度(被害の発生確率)と結果の重大性(被害の大きさ)により計量する。
6.1.5 無人航空機の運航リスクの評価
無人航空機の飛行にあたって、リスク評価とその結果に基づくリスク軽減策の検討は安全確保上非常に重要である。
すなわち、運航形態に応じ、事故等につながりかねない具体的な「ハザード」を可能な限り多く特定し、それによって生じる「リスク」を評価したうえで、リスクを許容可能な程度まで低減する。リスクを低減するためには、①事象の発生確率を低減するか、②事象発生による被害を軽減するか、の両方を検討したうえで必要な対策を取る。例えば、機材不具合というハザードによる墜落というリスクに対しては、機材不具合の可能性を低減するために信頼性の高い機材を使用(上記①)したり、墜落時にパラシュートにより地上の被害を低減(上記②)したりなどの対策が考えられる。
リスクの評価、軽減、管理方法については、代表的なものとして、ICAO(国際民間航空機関)のSafety Management Manual(DOC 9859)やJoint Authorities for Rulemaking of Unmanned Systems(JARUS)のSpecific Operations Risk Assessmento(SORA)等があり、これを理解しておくことは有用である。
6.1.6 カテゴリーⅢ飛行におけるリスク評価(一等)
無人航空機が制御不能な状態に陥った時、人と衝突し、重大な障害を引き起こす可能性がある。
運航者は、飛行計画上の地上又は水上の人が無人航空機により受けるおそれがある被害に関する安全リスク(地上リスク)の把握を行い、リスクに曝される第三者の人数及び衝突の際に人に与える衝撃を減らすための適切な措置の実施と、無人航空機が制御不能になった場合に備えて設定する緊急事態への対応手順及び計画の有効性について確認する必要がある。また、無人航空機と有人航空機との空中衝突に関する安全リスク(空中リスク)についても把握を行い、衝突を回避するための適切な措置等を実施することも必要である。
運航者は、無人航空機の運航における地上リスク及び空中リスクについてのリスク評価(安全な運航の計画、リスク分析と評価、リスク軽減策の実施、飛行の実施等)を行う必要がある。
(1) カテゴリーⅢ飛行の飛行経路によるリスク評価について(一等)
カテゴリーⅢ飛行を行う場合の飛行経路については、経路下にどれくらい第三者が存在する可能性があるのか、機体に不具合が発生した場合等に地上の第三者がどれくらいリスクに曝されるのか、経路上において有人航空機の飛行が想定されるのかなどを評価し、その結果に基づき、飛行経路を設定するとともにリスク軽減策を講じる必要がある。
(2) カテゴリⅢ飛行の電波環境によるリスク評価について(一等)
カテゴリーⅢ飛行を行う場合であって、携帯電話事業者の無線通信ネットワークを利用して操縦を行うときは、電波環境についてのリスク評価を行い、その結果に基づき、携帯電話事業者が定める手続きを行ったうえで使用することとし、複数事業者のネットワークを使用することによる通信系統の冗長化や携帯電話事業者の通信可能エリアに飛行経路を確実に含まれるように設定するなど運航形態に応じた安全対策を講じる必要がある。カテゴリーⅡの目視外飛行を行う際にもリスクによっては同様の措置が求められる。
(3) カテゴリーⅢ飛行の使用機体の機能と性能によるリスク評価について(一等)
使用する無人航空機については、第一種機体認証を受けた機体を使用することに加えて、当該機体認証に係る無人航空機の使用の条件や無人航空機飛行規程の限界事項などの機体の機能および性能が、行おうとする運航形態に応じたものになっていることについてリスク評価を行い、その結果に基づき、リスク軽減策を講じる必要がある。
(4) カテゴリーⅢ飛行の運航体制によるリスク評価について(一等)
カテゴリーⅢ飛行を行う場合にリスク評価を行うにあたって、その結果に基づき、リスク軽減策を講じる必要があるが、当該リスク軽減策を講じるために必要な運航体制を構築しなければならない。
例えば、操縦者については、一等無尽航空操縦士の技能証明を受けていることに加えて、行おうとする運航形態に適切な者であることや緊急事態への対応等について訓練を受けていることが求められる。
また、操縦者だけでなく運航に必要な補助者等を含めた協力体制の構築も必要な場合も感がられる。
(5) リスク軽減策を反映した最適な運航の計画(一等)
運航者(運航に安全管理責任を持つ者、操縦者も含まれる。)は、無人航空機の運航における地上リスク及び空中リスクについてのリスク評価を行い、その結果に基づくリスク軽減策を運航の計画に適切に反映することにより最適な運航の計画を立案し、飛行の安全を確保する必要がある。