4.4 機体の構成|無人航空機の飛行の安全に関する教則
令和4年9月5日に国土交通省から公開された「無人航空機の飛行の安全に関する教則」の内容について備忘録として挙げています。
以下の内容は全て国土交通省航空局「無人航空機の飛行の安全に関する教則」から引用しています。
4.4 機体の構成
4.4.1 フライトコントロールシステム
(1) フライトコントロールシステムの基礎
フライトコントロールシステムは、搭載されている各種センサ(GPS、ジャイロ、加速度、方位、高度等)からの情報や送信機から送信された情報を処理し機体を制御するための信号を送るシステムである。なお、センサ類は、キャリブレーションを必要とするもの多いため、各機体で指定された方法で、キャリブレーションが正しく行われているかを常に注意する必要がある。フライトコントロールシステムを構成する一般的なデバイスには以下のものがある。
種類 機能・特長 GNSS(Global Navigation Satelite system) 人工衛星の電波を受信し、機体の地球上での位置・高度を取得するデバイス。(GPS(Global Positioning System)等) ジャイロセンサ 回転角速度を測定するデバイス。 加速度センサ 加速度を測定するデバイス。 IMU(Inertial Measurement Unit) 3軸のジャイロセンサと3方向の加速度センサ等によって3次元の角速度と加速度を検出する装置。また、メーカーによっては気圧センサを含む場合もある。 地磁気センサ 機体が向いている方向を地磁気を用いて取得するデバイス。 高度センサ レーザーや気圧センサなどを用い地上からの高度を取得するデバイス。 メインコントローラ― GPSなどの各種センサの情報と送信機の指令をもとに、機体の姿勢を制御するデバイス。 送信機 操作の指令を機体へ送信する、又は機体情報を受信するデバイス。 レシーバー 送信機の情報を受け取る受信機又は送受信機。 (2) 無人航空機の飛行に用いられる各種センサの原理及び使用環境
1) ジャイロセンサ
ジャイロセンサは、単位時間当たりの回転角殿変化を検出装置であり、これにより、風などで機体が傾いたときに、無人航空機の傾きや向きの変化を検出し、フライトコントロールシステムに情報を伝える。2) 加速度センサ
加速度センサは3次元の慣性運動(直行3軸方向の並進運動)を検出する装置であり、無人航空機の速度の変化量を検出するセンサである。ジャイロセンサと合わせて機体の姿勢を制御する。3) 地磁気センサ
地磁気センサは、地球の磁力を検出して方位を測定する。4) 高度センサ
高度の計測には主に以下のセンサがある。
気圧センサは、気圧の変化歪みゲージを利用して読み取り、高度を計測する。超音波センサは音波の反射時間から高度を計測する。LiDARはレーザー光(赤外線)を照射し反射時間から高度を計測する。
4.4.2 無人航空機の主たる構成要素
(1) 無人機で使われる電気・電子用語について
電池に関係する用語、単位、求め方及びその概要は以下のとおりである。
用語 単位 求め方 概要 電圧 V 抵抗(R)×電流(A) ● 電圧は、電池残量(現時点で放電できる電気量)で決まる。電池の残量が減ると電池の電圧は下がる。
● 放電(飛行)中の電圧降下は、電気回路の配線抵抗とバッテリーの内部抵抗によって決まる。出力 W 放電時電圧(V)×電圧(A) ● 単位時間当たりのエネルギー量を表す。
●出力が一定の場合、電池残量が少なくなると、放電時電圧が低下するため、電流は増大する。容量 Ah 電流(A)×時間(h) ● 満充電から、電圧が決められた最低電圧(終止電圧)になるまでの間に、利用できる電気量。
● 放電時の電流の大きさや温度によって、利用可能な容量は変化する。エネルギー容量 Wh 放電時電圧(V)×電流(A)×時間(h) ● 容量と同様に、電流や温度によってエネルギー容量は変化する。 放電率 % 現時点で放電できる電気量(Ah)/満充電時に放電できる電気量(Ah) ● 満充電で放電できる電気量と現時点で放電できる電気量の比率を表す。
● 0%は仕様上の完全放電状態を、100%は満充電状態を表す。(2) モーター、ローター、プロペラについて
電動の無人航空機においてローターを駆動するモーターには、ブラシモーターとブラシレスモーターがあり、ブラシレスモーターの特徴は、メンテナンスが容易(モーター内部の清掃、ブラシの交換が不要等)、静音、長寿命であることが挙げられる。また、ローターは通常回転方向(時計回転(CW:クロックワイズ)/半時計回転(CCW:カウンタークロックワイズ))に合わせた形状となっており、モーターの回転方向に合わせて取り付けるよう注意が必要である。
(3) モーター制御について
モーターの回転数はESC(エレクトロニックスピードコントローラ―)により制御されており、モーターで駆動されたローターの回転数を増減させることにより揚力や推力を変化させている。
4.4.3 送信機
(1) 送信機から無人航空機へ送信される指令の流れ
無人航空機費の指令は送信機から機体へ送られる。機体では、受信機が指令を受け取りメインコントローラ―からモーター又はサーボを駆動させ機体を操縦している。
(2) 送信機の信号について(一等)
送信機の信号は、同じ周波数帯が密集しているような場所では複数の電波が干渉して混信による誤作動が起きる可能性がある。電波混信の予防として飛行させる前に測定器などで周辺の電波の状態を確認することが望ましい。無人航空機で使用される送信機からの電波だけでなく、無線LANやWi-Fi、高圧送電線の影響を受ける場合もあるため、周辺環境の確認が必要である。
(3) 送信機の操縦と機能について
無人航空機は、送信機のスティックを操作して、機体の重心を中心とする3軸の回転(ピッチ(機首を上下する回転)、ロール(機体を左右に傾ける回転)、ヨー(機首の左右への旋回))やローターの推力の増減といった機体の動きの制御を行う。以下のとおりスティック操作による機体の動きの割り当てはモードにより異なる。また、スティックのニュートラル位置を調整するためのトリムスイッチがある場合もある。
① 回転翼航空機の場合
(a) スロットル:ローターの推力(揚力)の増減(機体の上昇・降下)
(モード1)右側スティックの上下操作 (モード2)左側スティックの上下操作
(b) エレベーター:ピッチ方向の操作(機体の前後移動)
(モード1)左側スティックの上下操作 (モード2)右側スティックの上下操作
(c) エルロン:ロール方向の操作(機体の左右移動)
(モード1/モード2)右側スティックの左右操作
(d) ラダー:ヨー方向の操作(機首の左右旋回)
(モード1/モード2)左側スティックの左右操作② 飛行機の場合
(a) スロットル:プロペラの推力の増減(機体の前後移動)
(モード1)右側スティックの上下操作 (モード2)左側スティックの上下操作
(b) エレベーター:ピッチ方向の操作(機体の上昇・降下)
(モード1)左側スティックの上下操作 (モード2)右側スティックの上下操作
(c) エルロン:ロール方向の操作
(モード1/モード2)右側スティックの左右操作
(d) ラダー:ヨー方向の操作
(モード1/モード2)左側スティックの左右操作
4.4.4 機体の動力源
(1) 機体の動力源について
無人航空機の機体の動力源として主に、電動かエンジンが使用されている。電動機のメリットは、振動、騒音が少ないため軽量化できるが、飛行時間が短いというデメリットがある。エンジン機のメリットは、飛行時間が長く長距離飛行が可能であるが、エンジンによる騒音が電動に比べ大きいというデメリットがある。
(2) バッテリーの種類と特徴
1) リチウムポリマーバッテリーの特徴
リチウムポリマーバッテリーはゲル状のポリマー電解質を採用したリチウムイオンバッテリーであり、多くの無人航空機に使用されている。
リチウムポリマーバッテリーには、エネルギー密度が高い、電圧が高い、事故放電が少ない、メモリ効果(充電容量が次第に減少する効果)が小さい、電解質が可燃物である等の特徴がある。2) リチウムポリマーバッテリーの取り扱い上の注意点
リチウムポリマーバッテリーの取り扱い上の注意点として以下のものが挙げられる。
● 充電器は満充電になると充電を停止するが、過充電となる場合がある。
● 過放電や過充電を行うと、急速に劣化が進み、寿命が短くなる。
● 過放電や過充電の状態では、通常利用時よりも多くのガスがバッテリー内部に発生し、バッテリーを膨らませる原因となる。
● バッテリーが強い衝撃を受けた場合、発火する可能性がある。
● バッテリーのコネクタの端子が短絡した場合、発火する可能性がある。3) 複数のセルで構成されたリチウムポリマーバッテリーの取り扱い上の注意
セル間の充電量のバランスを補正しながら充電することが重要である。バランスが著しく崩れたまま充電を行うとセル間の電圧差が生じ、セルによって過放電となる現象が起こり、急速に劣化が進む。そのため、セル間の充電量のバランスをとるバランスコネクタがついているタイプは、充電時にそのコネクタを充電器へ接続することが重要である。(3) エンジンについて
エンジン機は、エンジンの回転をローターを回転させ揚力と推力を得ている。エンジンには2ストロークエンジン、4ストロークエンジン、グローエンジン等の種類がある。エンジンの種類により、潤滑方式、燃焼サイクル、点火温度等が異なる。燃料にも種類があり、それぞれのエンジンでメーカーが指定する燃料を適切に扱う必要がある。燃料にオイル等を混ぜた混合燃料を使用する場合は、適切な混合比での使用が必要である。
4.4.5 物件投下のために装備される機器
無人航空機で物件投下する機器は、救命機器等を機体から落下させる装置や農薬散布のために液体や粒剤を散布する装置などがある。物件投下装置は、意図せず物件が落下しない構造となっているが、投下装置の多くは、搭載位置や対象物や手順などが定められているため、各投下装置の特性と機能を熟知しなければならない。特に、物件投下用のウインチ機構で吊り下げる場合は、物件の揺れ、投下前後の重心の変化に注意しなければならない。
農薬散布する装置の多くは、それぞれ決められた飛行速度、飛行高度などが定められている。ただし、風などの影響で対象区域より飛散する可能性があるため、第三者や第三者の土地に農薬が誤って散布しないように配慮しなければならない。
4.4.6 機体またはバッテリーの故障および事故の分析
(1) 機体の故障や事故の分析について(一等)
無人航空機の多くは、機体の異常情報を機体本体又は送信機のランプや音などで知らせる機能を有している。また、非行軌跡や機体の情報(フライトデータ)を記録している機種もあり、事故の原因分析を詳細に確認することも可能である。事故や故障の原因調査は、機体や飛行の安全性を向上させる重要な要素であるので、フライトデータを記録することが推奨される。
(2) リチウムポリマーバッテリーに関わる電気的なトラブル(一等)
リチウムポリマーバッテリーに関わる主な電気的トラブルを以下に示す。
● 満充電のリチウムポリマーバッテリーを使用し無人航空機を急上昇させた場合、直後にバッテリー残量が減ったように見えることがある。これはバッテリーから大きな電流が流れたことで一時的な電圧低下が生じることが原因である。
● 冬季の飛行では飛行時間が半減することがある。気温が低下すると放電能力が極端に低下するためである。
● リチウムポリマーバッテリーは高密度なエネルギーを大容量で出力できるが、バッテリー残量が減り、電圧低下してくると急激に出力が弱くなり、墜落の原因となるので注意する。