4.3 飛行原理と飛行性能|無人航空機の飛行の安全に関する教則
令和4年9月5日に国土交通省から公開された「無人航空機の飛行の安全に関する教則」の内容について備忘録として挙げています。
以下の内容は全て国土交通省航空局「無人航空機の飛行の安全に関する教則」から引用しています。
4.3 飛行原理と飛行性能
4.3.1 無人航空機の飛行原理
無人航空機が飛行するためには、重力に対抗する上向きの力を必要とする。飛行機では主翼に発生する揚力で重力に対抗する。一方、飛行機には飛行速度と逆向きに空気抵抗である効力が働くが、それに抗するために回転翼であるプロペラ等による推力が必要である。一方、回転翼航空機(ヘリコプター)及び回転翼航空機(マルチコプター)においては、重力に対抗する上向きの力はプロペラ(ローター)による推力によって生み出される。機体が運動すると、機体には飛行機と同様に効力も作用するが、推力の大きさを重力以上にし、機体姿勢を変化させてこれに抗する。これら機体に働く力が釣り合ったとき、機体は速度と姿勢を一定とする定常飛行(釣り合い飛行)を行う。
飛行中の航空機に流入する空気の機体に対する角度を迎角と横滑り角で表す。機体の前後・上下を含む面に空気流入の向きを投影した時に、前後軸とのなす角を迎角という。下方から空気が流入するときに迎角は正である。また、機体の前後・上下を含む面と空気流入の向きの面のなす角を横滑り角という。機体右側から空気流するときに横滑り角は正である。機体に作用する揚力と効力などの空気力、モーメントは流入空気の速さと共に、迎角、横滑り角で決まる。
航空機の姿勢はピッチ、ロール、ヨーと呼ばれる角度で表現する。機体の機首を上げ下げする回転がピッチ、機体を左右に傾ける回転がロール、機体を上から見たときの機首の左右の回転がヨーである。水平状態からのそれぞれの角度をピッチ角、ロール角(バンク角)、ヨー角(方位角)と呼び、それらの角速度をピッチ角速度(ピッチング)、ロール角速度(ローリング)、ヨー角速度(ヨーイング)と呼ぶ。
一般に、飛行機はプロペラによる推力によって速さを制御し、また、ピッチ、ロール、ヨーの姿勢を変化させることで飛行速度の向きを制御する。基本的に、ピッチを変化させるための舵が水平尾翼にあるエレベーター(昇降舵)、ロールを変化させるための舵が主翼にあるエルロン(補助翼)、ヨーを変化させる舵が垂直尾翼にあるラダー(方向舵)である。
4.3.2 揚力発生の特徴
流れる空気の中に翼のような流線型をした物体が置かれると物体には空気力が作用するが、流れと垂直方向に作用する力を揚力、流れの方向に働く力を抗力と呼ぶ。翼の前縁と後縁を結ぶ翼弦と流れのなす角を迎角といい、空気が下方から流入するときに迎角は正である。一般に迎角が増すと揚力、抗力ともに増加する。翼の断面形状が上面の湾曲が下面より大きな翼型は、効率よく揚力を発生できるので翼型やローター断面に利用される。しかしながら、あまり大きな迎角にすると、流れは翼の表面から剥離し、揚力は減じ、抗力が増大し、失速を招く。飛行中の飛行機が失速状態に陥ると、機体は急降下を始める。
プロペラは、2枚以上のブレードと呼ばれる翼が回転して推力を発生する。プロペラの回転にはトルクが必要であり、プロペラを回転させる原動機には反トルクが作用する。
回転翼航空機(マルチローター)はプロペラからの反トルクを相殺するために、偶数個のプロペラを半数ずつ異なる向きに回転させるのが一般である。各プロペラの回転数を変化させ、推力とトルクを変化させてピッチ、ロール、ヨーの運動を行う。一方、一般的に、回転翼航空機(ヘリコプター)はメインローターの反トルクをテールローターで相殺する。メインローターは1回転する間にブレードのピッチ角を周期的に変化させる可変ピッチ機構を持ち、これによって機体のピッチ、ロールの姿勢制御を行い、テールローターの推力を変化させてヨーの姿勢制御を行う。
4.3.3 無人航空機の飛行性能(一等)
カテゴリーⅢ飛行を行うにあたっては、無人航空機の飛行性能(離陸性能、上昇性能、加速性能、巡航性能、旋回性能、降下性能、着陸性能等)及びこれに影響を与える要因(機体重量、飛行速度、空気密度や風などの大気状態等)について理解することが必要となる。
4.3.4 無人航空機へのペイロード搭載
無人航空機には、ペイロードを搭載できない機体を除き、機体ごとに安全に飛行できるペイロードの最大積載量が定められている。ただし、ペイロードの最大積載量とペイロード搭載時の飛行性能は飛行高度、大気状態によっとも異なり、また飛行機の場合は離着陸エリアの広さによっても異なる。機体重量が変化すると航空機の飛行性能(安全性、飛行性能、運動性能)は変化するため注意が必要である。機体の重心位置の変化は飛行特性に大きな影響を及ぼすため、ペイロードの有無によって機体の重心位置が著しく変化しないようにしなければならない。
4.3.5 飛行性能の基本的な計算(一等)
カテゴリーⅢ飛行を行うにあたっては、無人航空機の飛行性能に関わる以下のような基本的な計算(機体重量、揚力、推力、空気密度、飛行速度、高度、回転翼の回転角速度の関係等)について理解しておく必要がある。
(1) 飛行機の揚力・回転翼航空機の推力
飛行機の水平定常飛行においては、機体重量w、揚力L、空気密度ρ、飛行速度Vの間に以下の関係がある。
W=L ∝ ρV^2プロペラなどの回転翼の推力Tは、空気密度ρ、回転角速度ωの間に以下の関係がある。
T ∝ ρω^2回転翼航空機(ヘリコプター)及び回転翼航空機(マルチローター)のホバリング時には、機体重量Wと推力Tの間に以下の関係がある。
W=Tまた、回転翼の消費パワー(仕事率)Pは、空気密度ρ、回転角速度ω、推力Tの間に以下の関係がある。
P ∝ ρω^3 ∝ Tω大気には標準大気が定められており、空気密度は高度に対して以下の表のように変化する。高度が1000m増加すると、空気密度は役0.9倍になる。
高度【m】 空気密度【kg/㎥】 高度0mとの比 0 1.2250 1.00000 500 1.1673 0.95287 1000 1.1116 0.90746 1500 1.0581 0.86373 2000 1.0065 0.82162 2500 0.95686 0.78111 3000 0.90912 0.74214 3500 0.86323 0.40468 例えば、高度3000mでの空気密度は高度0mと比べると、0.74倍になる。そのため、飛行機が同じ飛行速度で飛行するならば揚力は0.74倍になる。そこで√(1/0.74)≒1.16倍の飛行速度が必要である。回転翼航空機の場合も、同じ回転角速度で発生するプロペラの推力は0.74倍になり、同じ機体重量の回転翼航空機を飛行させるためには√(1/0.74)≒1.16倍のプロペラの回転角速度が必要であり、そのために必要な消費パワーは1.16倍になる。
ペイロードが搭載されるなどして飛行機の機体重量が2倍になると、2倍の揚力が必要となり、高度などの他の条件が同じであれば、√2≒1.4倍の機体速度が必要である。回転翼航空機の場合、機体重量が2倍になると、2倍の推力が必要となり、高度などの条件が同じであれば、√2≒1.4倍のプロペラ回転角速度が必要で、消費パワーは√(2^3)≒2.8倍になる。
飛行機において、機体重量が2倍になると、揚力が2倍になり、同じ迎角で飛行するためには√2≒1.4倍の飛行速度が必要になる。飛行中に速度を落としていくと、揚力を得るためには迎角を大きくしなければならない。しかし、迎角が大きくなりすぎると失速する。すなわち、飛行機には最低飛行速度(失速速度)が存在する。飛行速度の増加が必要ということは最低速度もそれに比例して増加することを意味する。すなわち、飛行機の機体重量が2倍になると、最低速度は1.4倍となる。
(2) 飛行機の旋回半径
飛行機がバンク角(ロール角)Φの定常旋回飛行を行うためには、力のつり合いから、水平定常飛行と比べて1/cosΦ倍の揚力が必要であり、飛行速度V、旋回半径r、重力加速度gの間に以下の関係がある。
V^2/r=ftanΦ例えば、飛行速度10m/s、バンク角20°の場合の旋回半径rは、重力加速度g≒9.8m/s^2、tan20°≒0.36であるので、以下のように求められる。
r=V^2/gtanΦ=10^2/(9.8×0.36)≒28mまた、cos20°≒0.94であるので、1.06倍の揚力が必要である。
(3) 飛行機の滑空距離
飛行機の滑空時に飛行経路が水平面となす角を滑空角(降下角)と呼ぶ無推力の定常滑空飛行状態での滑空角γは、揚力L、抗力Dによって以下のように求められる。
tanγ=1/(L/D)よって、ある高度hからの滑空距離dは以下のように求められる。
d=h/tanγ=h・L/Dここで、L/Dは揚抗比である。
例えば、揚抗比15の無推力の定常滑空飛行状態であれば、滑空角γは
γ=tan^-1(1/15)≒3.8°となり、高度=100mからの滑空距離dは、
d=100×15=1500mとなる。
(4) 水平到達距離(水平投射の場合)
高度hを飛行する飛行速度vの無人航空機が、揚力を失い落下を始める場合を考える。無人航空機の質点とみなせるものとし、空気抵抗は無視できると仮定すると、落下開始地点から地上に墜落するまでの水平距離xは、
x=v√(2h/g)で求めることが出来る。但し、gは重力加速度である。